劇場データ
住所:Corso Italia 16, Firenze 50123
開場:1852年
音楽監督:ズビン・メータ
座席数:約1890席
住所:Corso Italia 16, Firenze 50123
開場:1852年
音楽監督:ズビン・メータ
座席数:約1890席
イタリア中部、リグリア海に面したトスカーナ州は、温暖な気候と豊かな土壌に恵まれ、紀元前よりたいへん栄えてきました。花の都と呼ばれるフィレンツェは、トスカーナ州の州都として今も繁栄を見せていますが、ルネッサンス時代はかの有名なメディチ家によって統治され、世界一の芸術都市の栄光を欲しいままにしてきました。大詩人ダンテが「神曲」を書き、ジョット、ミケランジェロ、ボッティチェッリ、ダ・ヴィンチ、ラファエッロら偉大な芸術家たちが今に残る遺産を数多く残し、今もって芸術の都としての名誉はいささかもかげりを見せません。
また、世界で初めてオペラが上演されたのもこのフィレンツェで、1597年“ダフネ”が世界最古とされていますが、楽譜が現存していないため、“ダフネ”と同じ作曲者ペーリとカッチーニらによる1600年初演の“エウリディーチェ”が現存する世界最古のオペラとされています。
丘の上やジョットの鐘楼の上から市内を一望すると、街中の建物がオレンジの屋根に白い壁で同じ高さにそろえられ、ルネッサンス時代の美しい街並みがそのまま残っています。その中でもゴシック様式の粋を集めたドゥオーモは白、緑、ピンクの大理石で出来ており、市内の真ん中に美しくそびえています。また、世界で最も美しい美術館と言われるウフィッツィ美術館はメディチ家の膨大なコレクションを誇り、特にボッティチェッリの「ヴィーナスの誕生」と「春」は世界で最も有名な絵画といっても過言ではありません。その他にもピッティ宮殿、サンタ・クロ-チェ教会、ジョットの鐘楼、ヴェッキオ宮殿、サン・ロレンツォ教会、シニョーリア広場等々、街中が美術館のような美しさです。
フィレンツェを舞台にしたオペラも数々ありますが、特に有名なものは、フィレンツェ近隣のルッカで生まれたジャコモ・プッチーニの“ジャンニ・スキッキ”です。このオペラは彼の生涯で唯一のブッファ(喜歌劇)です。リヌッチョはアリアで「花咲き匂う樹木のようなフィレンツェ、シニョーリア広場に枝を張り…」と歌い、ラウレッタはかの有名な“私のお父様”のアリアで「ヴェッキオ橋からアルノ川に身を投げるわ…」と歌っています。
テアトロ・コムナーレは、1852年にポリテアーマ・フィオレンティーナ・ヴィットーリオ・エマニュエーレ2世劇場という野外劇場として建てられ、1883年に屋根が取り付けられました。戦争で大破されたのち、1935~37年と1961年に全面的な改装が施され、現在の姿となっています。フィレンツェで、もう一方のペルゴラ劇場は、1652年以来の歴史を誇り、ヴェルディの“マクベス”が初演された劇場としても有名です。
フィレンツェ最大の劇場テアトロ・コムナーレは、スタンダードな馬蹄形の劇場で、プラテア(平土間)の上に1層のパルコ(ボックス席)、その上にたいへん大きな2層のガレリア(天井桟敷)からなっています。オケピットの中で、指揮者の位置が通常の劇場よりもだいぶ高いところにあるので、客席から指揮者が良く見えるのも特徴です。音響もとてもよく、オペラ鑑賞には最適なスペースです。1933年から始まったフィレンツェ5月音楽祭(Maggio Musicale Fiorentino)は、今年で第63回を数えます。オペラ発祥の地にふさわしく、17世紀の復古上演なども盛んに行われ、非常にレベルの高い音楽祭として有名です。2000年は4月19日から6月30日まで開催され、メインの演目“椿姫”のほかには、ゴルドーニ劇場でジョルジョ・バッティステッリ作曲“アフリカの感動”が、ペルゴラ劇場では、モンテヴェルディ作曲“ポッペアの戴冠”が、椿姫と同じテアトロ・コムナーレではチャイコフスキー作曲“エフゲニー・オネーギン”等が上演されました。また、オペラ以外にも、オーケストラのコンサートやバレエ、ピアノ・リサイタルなど多彩なプログラムが上演されます。
日時:2000年4月29日 20:30~
演目:椿姫
作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ
指揮:ズビン・メータ
演出:クリスティーナ・コメンチーニ
キャスト:
ヴィオレッタ・・・マリエッラ・デヴィア
フローラ・・・ラウラ・ブリオリ
アンニーナ・・・アントネッラ・トレヴィザン
アルフレード・・・マルセロ・アルヴァレス
ジェルモン・・・ファン・ポンス
ガストン・・・エンリコ・コッスッタ
2000年の5月音楽祭の目玉はなんといっても、この新演出による椿姫でした。指揮はもちろん1985年以来、棒を振っているズビン・メータですが、5月音楽祭管弦楽団とも息がぴったりで、スカラ座やボローニャに負けないほどの素晴らしい出来映え。演出はクリスティーナ・コメンチーニ、舞台はパオラ・コメンチーニという美人姉妹のコンビ。衣装のアントネッラ・ベラルディは、クリスティーナが映画の仕事をする際のパートナーで、重要なポストはすべて女性スタッフが占めるという珍しい公演となりました。一部の評論家には“落胆と貧困さを赤裸々にして内容乏しい演出”と酷評されたりもしましたが、私はなかなか美しい舞台だったと思います。世界で1番上演回数が多く、イタリア人の大好きなオペラ“椿姫”ということで、フィレンツェだけに限っても、過去に何度となく新演出が上演され、名舞台と比較されるのは大変なことなのですから。特に第3幕のヴィオレッタの部屋でのシーンは、ベッドの部屋から外に出て、ずっと立って歌い、死ぬ直前に舞台の奥にあるベッドに自分から戻り、そして息絶えるという演出。これなどは、なかなか新鮮で革新的な演出といえるでしょう。しかし、革新的なのはいいことばかりではありません。第2幕第2場のフローラの邸宅でのパーティーで、ガストーネとマタドールたちの踊りのシーンは、シーツを立てて、その裏で影絵風に踊るという演出は良いとしても、踊り自体がちょっと下品な感じで、どうかと思いました。さて、肝心な歌手陣です。まずヴィオレッタ役は、現在イタリアを代表するディーヴァのマリエッラ・デヴィアでしたが、美しい声とその卓越したテクニックで満場のファンを魅了しました。正統派のベル・カント・コロラトゥーラ・ソプラノである彼女が、ヴィオレッタ役に向いているかどうかの論議は別にして、彼女の十八番の“ルチア”や“リゴレット”のジルダとは違う味わいがありました。アルフレード役のアルゼンチン人マルセロ・アルヴァレスは、日本でも1999年の藤原歌劇団の定期公演で、ルキアネッツとのコンビでも来日しましたが、日本での出来とは比べものにならないくらい良く、大器ぶりを遺憾なく発揮していました。最近少なくなってきているこの正統派のベル・カント・テノールは、音楽性も豊かで、MET等でも活躍中ですが、2001年の新国立劇場での“リゴレット”のマントヴァ公爵役も楽しみです。ジェルモン役のスペイン人ファン・ポンスも日本でお馴染みですが、動きの少ないジェルモン役を、更に淡々と演じて好印象でした。
ところで、最後にとても楽しいアクシデントがありました。オペラが終了してカーテンコールの最中、コンサートマスターが指揮台に上り、「何が始まるのかな?」と思ったら、おなじみ第1幕の“乾杯の歌”の前奏が始まったのです。さては、アンコールかと思いきや、突如Happy Birthdayの歌に変わり、メータが登場し、そして、デヴィアがメータに大きな花束を渡したので、場内は大喝采に包まれました。この日(4月29日)はメータの64回目の誕生日ということで、彼はフィレンツェ5月音楽祭よりも1歳お兄さんとなりました。