劇場データ
住所:Piazza Beniamino Gigli , 00184 Roma
開場:1880年
初演:"セミラーミデ"(ロッシーニ作曲)
音楽監督:ジャンルイージ・ジェルメッティ
座席数:1604席
住所:Piazza Beniamino Gigli , 00184 Roma
開場:1880年
初演:"セミラーミデ"(ロッシーニ作曲)
音楽監督:ジャンルイージ・ジェルメッティ
座席数:1604席
「永遠の都ローマ」、「すべての道はローマに通ず」、「ローマは1日にしてならず」、ローマの偉大さを賛える言葉は数々ありますが、2500年の歴史を誇るこの町は、とてもひとことでは言い表せません。7つの丘に囲まれ、テヴェレ川のほとりに広がるこの町は、キリスト教の総本山ヴァチカン市国を抱え、ローマ教皇のお膝元として繁栄してきました。現在でも、古代ローマ大帝国時代、中世、ルネッサンス、バロックなど、各時代の教会、宮殿、遺跡に加え、無数の噴水や美しい広場が見事な調和をもって混ざり合い、永遠の都を形成しています。ローマを舞台にしたオペラも、モーツァルトの「皇帝ティトの慈悲」、ドニゼッティの「ドン・パスクアーレ」、ワグナーの「リエンツィ」、プッチーニの「トスカ」など数多く存在します。特に「トスカ」はすべて実在する場所が舞台で、第1幕のサンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会、第2幕のファルネーゼ宮殿、第3幕のサンタンジェロ城と、ローマを旅したら"トスカ巡り"も楽しいものです。だたし、トスカのようにサンタンジェロ城から身を投げてはいけません。
この劇場の歴史は意外に新しく、1880年にロッシーニのセミラーミデで開場しました。開場当時は建築主の名前をとってコスタンツィ劇場(Teatro Costanzi)と呼ばれ、一時期はローマをミラノ、ナポリ、ヴェネツィアなどと並ぶオペラの中心地として、栄えさせる省庁となってきました。その当時リコルディ社に対抗する楽譜出版業大手だったソンゾーニョ社が、1888年にこの劇場を買取り、1幕オペラのコンクールを催しました。その第2回の優勝作品がマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」で、1890年5月17日、ここで初演されました。その後もヴェリズモ(現実主義)作品が多く取り上げられ、マスカーニの諸作品やザンドナーイ「ジュリエッタとロメオ」などが初演されました。しかし、この劇場の栄光は何と言ってもプッチーニの「トスカ」の初演。100年前の1900年1月14日に当代の名指揮者レオポルド・ムニョーネによって大成功をおさめました。
トスカは全幕に渡って1800年のローマが舞台ですが、2000年1月14日には初演100周年公演が、初演の100年後の同日、同劇場で上演されました。ドミンゴの指揮、パヴァロッティのカヴァラドッシ、ゼッフィレッリの演出という豪華ラインナップもさることながら、何重もの意味のある公演となったのです。しかし、たった1回だけの公演で、しかも衣装と小道具だけという演奏会形式で、ローマ歌劇場の運営の厳しさが露呈してしまいました。
1928年以来、市が運営していますが、ときおり素晴らしい公演があっても、全体的にはやや沈滞していてとても残念です。
劇場は馬蹄形で、プラテア(平土間)の上に4層のパルコ(ボックス席)が104、その上にとても天井の広い1層のガレリア(天井桟敷)という造りで、プラテアのいすとパルコ内の壁のワインレッドが金箔に映えます。また、天井の美しいフレスコ画はブルニョーリ作のとても美しいもの。ホワイエは狭いので、休憩時間にはローマで活躍した20世紀初頭の大テノール、ベニャミーノ・ジーリの名前を取った劇場前のジーリ広場でお喋りしている人が目立ちます。
日時:2000年5月3日 20:30~
演目:椿姫
作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ
指揮:エヴェリーノ・ピード
演出:アルベルト・ファッシーニ
キャスト:
ヴィオレッタ・・・ディミトラ・テオドッシュー
フローラ・・・マヤ・ダシュク
アンニーナ・・・パオラ・フランチェスカ・ナターレ
アルフレード・・・ルカ・カノーニチ
ジェルモン・・・ロベルト・セルヴィーレ
ガストン・・・アントニオ・フェルトラッコ
この演出は、ちょうど同時期にカリアリで"カルメル派修道女との対話"の演出も手がけていたアルベルト・ファッシーニによるもので、1998年4月の椿姫の再演でした。彼は日本の新国立劇場でもすっかりおなじみですが、1999年の「仮面舞踏会」、2000年の「リゴレット」、2001年の「トロヴァトーレ」とヴェルディ作品をすべて担当しています。かのルキノ・ヴィスコンティ門下である彼は、美しく、正攻法の舞台を作り出し、私も好きな演出家の1人です。
さて、この日の椿姫ですが、1幕、2幕はわりとスタンダードな演出でしたが、3幕がとても変わった演出で、一昨年も大ブーイングになったといういわく付きの舞台でした。具体的には、ヴィオレッタの寝室を病院の大部屋に置き換え、舞台の左右にベッドが7~8個ずつ客席に平行に置いてあり、なおかつ奥に行くにつれて少しずつ内側にずらしてあるのです。これは、遠近法を利用しているものと思われます。左の1番手前のベッドがヴィオレッタのベッドで、他のベッドには誰もいません。ヴィオレッタは大部屋の中から舞台の前に出てきて、基本的にはずっと立ったまま3幕を歌い、歌いきったあと、自分で奥のベッドへ駆け込んで幕、という何とも不思議な演出でした。病院の中にもかかわらず、外来の医者がコートを着て入ってくるのも変ですが、他に誰も患者がいないというのもおかしい(肺病は不治の病なので、全員死んでしまったという意味か?)。まあ、ファッシーニとしても、世界で1番有名なオペラを、しかも、師匠のヴィスコンティや兄弟子のゼッフィレッリが伝説の舞台を作り上げたこのオペラを演出するにあたっては、相当な葛藤があったものと思われます。幕間の休憩の時に、毎日オペラ座に通っているというローマ市民のおじさんと話しをした際、こんなオペラは病院オペラだ、と吐き捨てるように言っていたのが3幕でよく分かりました。おじさんは、フィレンツェ5月音楽祭の椿姫(私も数日前に見たものです)はとってもいいらしいね、と自嘲していました。
さて、歌手のほうですが、当初、ヴィオレッタにアンジェラ・ゲオルギューがアサインされていましたが、直前にすべての日程をキャンセルしてしまいました。また、私が見た公演はBキャストのほうだったので、ビッグネームはほとんどおらず、若手中心のキャストでした。ヴィオレッタ役のディミトラ・テオドッシュウは、まだ十分にコントロールが効いていないものの、瑞々しいヴィオレッタぶりでなかなかテクニックもあり、盛んに拍手を受けていました。彼女は2001年6月にフェニーチェ劇場来日公演で、同役にて日本デビューとなります。さすがにオケやコロは超スタンダードナンバーの椿姫ということで、手馴れたものでしたが、やはり全体的に盛りあがりに欠けた公演に終わってしまいました。オールスターキャストのフィレンツェ5月音楽祭の椿姫と比べるのも無茶な話ですが、やはり輝ける伝統のローマ・オペラ座の公演としてはちょっと寂しく、今後に期待したいものです。